中小企業もパワハラ防止法の対応義務化に|その対策について簡単に解説します
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2020年6月1日にパワーハラスメント防止措置を事業主の義務とするパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法) が施行されました。
施行当初は大企業のみ義務化の対象となっていましたが、中小企業もまもなく対応が義務化されます。
そこで、パワハラ防止法によって中小企業は今後何を義務化されるのか、どのような対策をとる必要があるのかを簡単に解説いたします。
パワハラ防止法とは
パワハラ防止法(通称)は、正式な名称を『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』(労働施策総合推進法)と言います。
労働施策総合推進法は労働者の「職業の安定」「地位の向上」「完全雇用の達成」などを目的とする法律です。改正で「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること。」が明記されました。
これにより企業のパワハラ防止対策が義務化され、労働施策総合推進法はパワハラ防止法とも呼ばれるようになりました。
労働施策総合推進法
第九章 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等
(雇用管理上の措置等)
第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
パワハラ防止法に違反した際の罰則について
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)に違反した場合、現時点では罰則は設けられていません。
ただし「必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができる」(第三十三条)としており、あわせて違反した事業主が勧告に従わない場合はその旨を公表できることになっています。
中小企業のパワハラ防止対策の義務化は2022年4月1日から
先述の通り大企業は2020年6月1日より職場におけるパワーハラスメント対策が義務化されています。一方、中小企業に関しては2022年3月31日まで「努力義務期間」が設けられていましたが2022年4月1日より対応が義務化されます。
中小企業の定義 (中小企業基本法)
中小企業 | 資本金の額または出資の総額 | 又は常時使用する従業員の数 |
---|---|---|
①製造業など(②③④以外) | 3億円以下 | 300人以下 |
②卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
③サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
④小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
職場におけるパワーハラスメントにあたる行為とは
まず「職場におけるパワーハラスメント」とは何を意味するのかを整理しておきましょう。
改正された労働施策総合推進法において、職場におけるパワーハラスメントは以下3つの要素を全て満たすものとされています。
- 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
そして、職場におけるパワーハラスメントとして、厚生労働省の告示では以下の6つを具体例として挙げています。
①身体的な攻撃
「暴行」「傷害」など。
<具体例>
- 殴打、足蹴りを行う。
- 怪我をしかねない物を投げつける。
②精神的な攻撃
「脅迫」「名誉毀損」「侮辱」「ひどい暴言」など。
<具体例>
- 人格を否定するような発言をする
- 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
- 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
- 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信する
③人間関係からの切り離し
「隔離」「仲間外し」「無視」など。
<具体例>
- 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする。
- 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる。
④過大な要求
業務上明らかに不要なこと、遂行不可能なことの強制、仕事の妨害。
<具体例>
- 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる。
- 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する。
- 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる。
⑤過小な要求
教務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない。
<具体例>
- 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。
- 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない。
⑥個の侵害
私的なことに過度に立ち入る。
<具体例>
- 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする。
- 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する。
引用:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
①の「暴行」や「傷害」に関しては、業務の遂行に関係するものでも「業務の適正な範囲」に含まれません。また、②や③に関しても原則として「業務の適正な範囲」を超えると考えられています。
判断が難しいのは④〜⑥です。何が「業務の適正な範囲」を超えるかの判断は企業文化や業種により異なるため、各企業や職場で何が「業務の適正な範囲」を超えるかに対する共通の認識を持つことが望ましいとされています。
パワハラ防止法の対応義務化による中小企業のとるべき対策
では、中小企業はパワハラ防止法の施行により具体的にどのような対策を行う必要があるのでしょうか。
指針(令和2年厚生労働省告⽰第5号)では、事業主は以下の4つを「職場におけるパワーハラスメントを防止するために講ずべき措置」としています。
- 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるパワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- 1から3までの措置と併せて講ずべき措置
以上を踏まえて、職場でパワーハラスメントを発生させないための「予防策」と、発生してしまった時の「解決策」や「再発防止策」を講じることが重要です。
職場でパワーハラスメントを発生させない予防策
①組織のトップからパワーハラスメントに関する方針を打ち出す
全従業員に向けて、社内ではパワーハラスメントをけして許さない、発生させないという強いメッセージを発信します。
②パワーハラスメントに関する社内ルールを決める
パワーハラスメントを起こした者への対処方針や対処内容を、就業規則や服務規律等に定めます。
③社内の実態を把握する
従業員に対するアンケートで、パワーハラスメントの有無を把握します。
④教育する
定期的にパワーハラスメント防止に関する研修や教育を実施します。
⑤周知する
パワーハラスメントに対する会社の方針や規則を、ポスターや社内報、ホームページなどに掲載し、広く周知・啓発を行います。
パワーハラスメントが発生してしまった時の解決策や再発防止策
①相談窓口を設置する
パワーハラスメントの相談窓口を設け、相談窓口の担当者に従業員が相談や苦情を気軽にできる体制を整えます。
②被害者と行為者に迅速かつ適正な対応を講じる
事実関係を迅速に確認し、被害者には適正なフォロー(被害者と行為者を引き離す・メンタルヘルス不調への相談対応等)をすると共に、行為者にも適正な対応(懲戒や配置転換、研修等)を実施します。
③再発防止に向けた対応を実施する
パワーハラスメントを行った者に対しては厳正に対処する旨を改めて社内報やホームページ党で掲載したり、パワーハラスメントに関する研修や講習等を改めて実施したりします。
パワハラ防止には教育・研修の実施が最も効果的
社内でパワーハラスメントの発生を防ぐには、従業員に対する教育や研修が最も効果的だと言われています。
研修により、全従業員が「何がパワーハラスメントにあたるのか」「パワーハラスメントの悪影響」などについて共通の認識を持つことが大切です。
しかし、中小企業の場合、社内のリソースだけでは教育や研修を実施できないケースが見受けられます。教育や研修には大きく分けて「従業員を指揮監督する管理者向けの研修」と「一般従業員向けの研修」が存在しますが、中小企業の場合、特に「従業員を指揮監督する管理者向けの研修」の実施は難しいことが多いようです。
もしも社内の体制だけで研修の実施が難しい場合、『社外講師による研修プログラム』の実施を検討されてはいかがでしょうか。
当社はパワハラ防止法の対応義務化に向けた研修プログラムの実施を支援しています。どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。
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