企業に求められる健康診断の事後措置とは?
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社内で健康診断の運用や実施を担当すると、異常の所見が見られた労働者に対して行う「健康診断の事後措置」の対応も任されてしまう方が多いのではないでしょうか。
ところが、健康診断の事後措置の対応を行う担当者からは、
- 「専門職ではないので、個人情報を取り扱うのは不安」
- 「そもそも、どのように対応したらいいのか分からない」
など、不安の声をよく聞きます。
そこで、本記事では、「健康診断の事後措置」の詳細や、事後措置の流れ、個人情報の取り扱い方などについてお話をいたします。
健康診断の実施だけでは足りない!必要なのは事後措置の徹底
健康診断の企画や運営に携わると、最初は健康診断の実施だけでも非常に大変な業務だと感じることでしょう。健康診断が終わり、ほっと一息つきたい方も多いかもしれません。
でも、ちょっと待ってください。
実際には、健康診断を実施してからが本当の勝負なのです。
健康診断の実施の目的は以下の4つです。
- 健康障害の早期発見
- 業務に起因する健康障害の早期発見
- 業務を遂行する上で必要な就業上の措置を行う
- 労働者の健康への関心を高める
これらの目的を達成するためには、健康診断を実施するだけでは不十分です。実は、実施後の対応こそ非常に重要なのです。
そう、「健康診断の実施が終わりではない」ということです。
健康診断の実施は予防医療(医学)の二次予防に該当し、労働者一人一人の健康を維持するだけでなく、最終的には企業の利益にもつながります。
予防医療(医学)とは
予防医療(医学)とは、病気に対する予防策を行うことで、病気の発生や進行・重症化を未然に防ぐという考え方やその活動のことを指します。
一次予防 | 二次予防 | 三次予防 | |
---|---|---|---|
目的 | 病気の予防 | 病気の進行や重症化予防 | 病気の再発予防 機能回復や社会復帰支援 |
具体例 | メタボ予防教育 禁煙教室 など | 健康診断や人間ドック がん検診 など | 治療や管理 リハビリテーション など |
そのため、健康診断を実施し、異常所見がある労働者に対して必要な事後措置を行うことは、労働者の生産性を維持するためにも重要です。
それでは、健康診断に関連する法令で定められている事後措置について確認していきましょう。
健康診断の事後措置とは
健康診断の事後措置とは、健康診断の結果、異常の所見が見られた労働者に対して、企業側が行なう一連の対応のことです。
もう少し具体的に説明すると、「健康診断の結果にて異常所見があると診断された労働者に、企業が医師の意見を聴取した上で、必要に応じて適切な措置を行う」ことです。
健康診断の事後措置については、「労働安全衛生法第66条の5」に定められています。また、健康診断の事後措置の詳細については、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」に明記されていますので、まだお読みでない方はご一読ください。
健康診断の事後措置を行う際には、以下の注意点を押さえておきましょう。
<事後措置を行う際の注意点>
- 就業区分に基づき、必要な事後措置について医師(産業医)から助言をもらうこと。
- 労働者に不利益な取り扱いをしてはならないこと。
- 個人情報の取り扱いに注意すること。
事後措置の対応は、労働者の健康と企業の責任を守るために重要なものです。
以上のポイントに注意して、事後措置の対応を行ってください。
健康診断の事後措置の流れ
では、事後措置の実際の流れについて確認しましょう。
健康診断を実施後、当該労働者ごとに診断区分に関する医師などの判定を行います。
診断区分は、「異常なし」「要観察」「要医療」の3つに分けられます。
労働安全衛生法では、診断区分が「要観察」または「要医療」と判定された労働者に対し、医師や保健師による保健指導の実施に努めるよう定められています。
<参考>:労働安全衛生法第66条の7(労働安全衛生法 | e-Gov法令検索)
そして、その結果について、産業医へ就業に関する意見聴取を実施します。この際に重要となるのが「就業区分」です。
就業区分とは
就業区分とは、定期健康診断などの結果を基に、治療の要否などを示す医学的な区分とは別に、就業の可否や就業の制限などを示す区分を指します。
就業区分も3つに分けられています。
就業区分
就業区分 | 就業上の措置の内容 | |
区分 | 内容 | |
通常勤務 | 通常勤務でよいもの | |
就業制限 | 勤務に制限を加える必要のあるもの | 労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働不可の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換等の措置を講じる。 |
要休業 | 勤務を休む必要のあるもの | 療養のため、休暇、休職などにより一定期間勤務させない措置を講じる。 |
<出典>:労働衛生のしおり
まず、事業者は産業医に労働者がどの区分に属するのか判定をしてもらい、その上で必要な措置について助言をもらいます。そして、健康診断結果の区分に応じて適切な事後措置を行います。
なお、事後措置内容の決定を行うのは事業者であり、産業医が行うのはあくまで意見や勧告となることを覚えておきましょう。
事後措置では労働者に不利益な取り扱いをしないよう注意が必要
さらに注意しなければいけないことは、労働者に不利益な取り扱いをすることのないように事後措置を実施することです。
「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」にも記載がありますが、
- 健康診断の結果を理由として解雇すること
- 期間を定めて解雇される者について契約の更新をしないこと
- 退職勧奨を行うこと
- 不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は職位(役職)の変更を命じること
などは不利益な取り扱いとなりますので、事後措置の実施においては注意が必要です。
<参考>:健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針|2-(4)-(ロ)-③
個人情報の取り扱い
個人情報の取り扱いについては、人事担当者の方々であれば、すでにご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、念のためにお伝えしておきたいと思います。
なお、詳細については「個人情報の保護に関する法律の第2条」をご確認ください。
例えば、
- 健康診断を受けた人の病歴
- 健康診断の結果、事後措置に関する情報
などは、適切な方法で管理しなければなりません。
適切な管理方法の例としては、
- 健康診断の情報の管理責任者や取り扱う実務担当者を定めておく
- 紙媒体などは鍵のかかる棚に保管する
- 電子データの場合は暗号化しパスワードをかける
などの対応が必要です。
健康診断や二次健診の受診勧奨について
健康診断や二次健診の受診勧奨については、事業者が労働者に働きかけることが適当です。
健康診断の受診率については、事業者が受診率向上に向けて、労働者に対する周知および指導に努める必要があります。
二次健康診断についても受診勧奨をすると同時に、診断区分に関する判定を受けた労働者には二次健診結果を提出するよう働きかけることが適当です。
上記の内容は、「健康診断結果に基づき事業者が講じるべき措置に関する指針」にも記載されていますので、ぜひ率先して労働者に働きかけるようにしていただければ幸いです。
<参考>:健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
本記事監修:産業保健師 辻 梨恵子(ペンネーム)
<参考図書>職場の健康がみえる 産業保健の基礎と健康経営
編集:医療情報科学研究所、発行所:株式会社 メディックメディア
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