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【保健師監修】改めて確認しよう!‘‘安全配慮義務‘‘とは
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「安全配慮義務」という言葉は何気なく使っているものの、あらためて人に説明するとなると難しい言葉ではないでしょうか。まずは安全配慮義務と自己保健義務とを対にして考えることから始めましょう。

この記事はこのような人におすすめ!
・企業の使用者
・管理職
・人事担当者
・産業保健師
・産業医

安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、企業がその業務の中で、従業員の身体や健康を守るために、必要な措置を講じる法律上の義務のことを言い、以下の法律によって定められています。

労働安全衛生法第3条1項

事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する実施に協力するようにしなければならない

労働契約法第5条

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする

わかりやすく表現すると、「従業員が安全かつ健康に働けるよう、企業が必要な配慮を行う」というものです。これは産業医や産業保健師の専門家のみが負うべき義務ではなく、会社が従業員に対して負うべきものです。罰則はありませんが、違反した場合には損害賠償請求に応じなくてはならない可能性もあります。企業の健全な運営において必ず必要な知識といえますので、関係する担当者は必ず覚えておくようにしましょう。

自己保健義務とは

自己保健義務の根拠条文は、労働安全衛生法第4条の「労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない」です。

こちらは、「元気に働ける状態を維持しなければならない、従業員の責務」といえるでしょう。

会社は社員の健康と安全を守る責任があるのと同じように、社員は自分自身の健康と安全を守る責任があるということです。

安全配慮義務に違反した場合

罰則が科される可能性がある

  1. 債務不履行
  2. 不法行為責任
  3. 使用者責任

損害賠償請求が妥当であると認められると、当然ながら賠償金を支払わなくてはなりません。

また、そういった事実が世の中に知られることにより、企業や組織のブランドイメージ低下も考えられるでしょう。安全配慮義務の違反は企業にとって大きなダメージになるものですから、避けなければなりません。

判例の紹介

ここまで安全配慮義務とは何かを紹介してきました。

ここからは、過去実際に起きた判例を元にイメージをしていただければと思います。

京和タクシー事件 京都地裁 昭和57.10.7

タクシー運転手が就業時健康診断で「左肺浸潤の疑・要請密」という診断結果が出たにもかかわらず、使用者が本人にそのことを告知せずにいたため、憎悪した結果、肺結核に罹患した

裁判所は損害賠償責任を肯定。

システムコンサルタント事件 東京高裁平成11.7.28

健康診断の結果、毎年高血圧の診断を受けていたコンピューターのシステムエンジニアのチームリーダーが、長時間かつ責任の重い勤務に従事して脳幹部出血により死亡。

遺された家族が起訴を起こし、会社は安全配慮義務を問われた。

このように、企業が安全配慮義務を果たすためには、従業員の健康情報が必要です。

では、上記の判例のような事態を避けるためには、どのようなことに気をつけていけばよいのでしょうか。

少々難しい内容ですが、丁寧に説明していきます

予見可能性

予見可能性とは、ある出来事が起こったとき、事前のその出来事を予想できたかどうかの可能性を言います。予見可能性が有るのにそれを回避せずに損害が生じた場合には、過失(落ち度)とされます。

具体的には、うつ病自殺の事案では、使用者において労働者の自殺という結果まで予想できたのかどうかという予見可能性の有無の点をめぐって、しばしば争いになっています。

結果回避義務

結果回避義務とは、予見された内容についてその結果に至ることを回避できたのかという視点です。

具体的には、じん肺の場合は「じん肺という病気にかからないように粉塵の量や暴露量を減らすことができたか」などの事象を指しますし、うつ病の場合は、「自殺の危険性が迫っていると考えられたりする場合、産業保健スタッフや専門医による診断や治療を行ったか」などの事象を指します。

相当因果関係

相当因果関係とは、出来事と病気との間に一定の関係があるかを判断する基準です。

仕事が原因となる病気は、出来事から発症までの間に時間がかかる場合があります。

たとえば、手を挟んで骨折するという労働災害では、出来事と病気とは同時に起こります。一方で、過労死は出来事と病気とかが同時に起こるとは限りません。長時間働いている従業員が心筋梗塞を発症するのは忙しい最中かもしれませんし、あるいは長時間労働が落ち着いた後かもしれません。

この場合、被害者は因果関係の立証に苦慮することから、国は一定の基準のもとで労災に該当するかどうかを判断します。

ここまで安全配慮義務について紹介してきましたが、使用者が従業員に対して負う義務であることがお分かりになったかと思います。ただし、これはあくまで労働契約に付随した義務であり、使用者(=会社)がいかなる犠牲を払ってでも労働者に対し従業員が求める配慮をしなさいといった義務ではなりません。

ある日、部下から「生きているのが辛くて死にたいんです。でも、このことは家族には言わないでください」と言われたらどうでしょうか。

生命や身体の危険がある状態のため、個人情報保護云々の話ではありませんから、「できるだけ早く専門の医療機関を受診してください。受診にもご家族が付き添ってくださると安心です」と家族へ伝える必要があります。

もしかしたら、「家族に言わないでくれ」とお願いされたのにも関わらず、家族に伝えられてしまったことがショックで自殺してしまう可能性はゼロではありません。

しかし、家族に言わなかったからと言って自殺の可能性が下がるかも分からないし、当然その可能性はゼロにはならないでしょう。

安全配慮義務は結果債務ではなく手段債務です。だからこそ、結果的に自殺を防げたかではなく、自殺を防ぐためにとるべき措置(この場合で言えば、家族に連絡し、家族に対応をお願いするという行為)をきちんととっていたか?が重要となります。

まとめ

社員が心身ともに健康で安全に働くためには、企業が安全配慮義務を順守していなければなりません。

長時間労働やメンタル不調など、深刻な事態へと発展する可能性も軽視できません。

気を付けていたはずなのにうっかり違反をしてしまった、なんてことにもならないためにも、使用者・人事担当者・産業保健チーム等一丸となって考えていきましょう。

【参照一覧】

【この記事を監修した人】

株式会社ウェルネスサポート常勤

産業保健師:中野

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